田舎の方に建つホテルにしてはキチンとした部屋である。悦子は感慨にも選んだ部屋を見てそう思った。
お金を支払う時もフロントから相手が見えない様にしてあったし、どうやらちゃんとしたルームサービスもある。
ほとんど、なんらそこら辺りのホテルと代わり映えしない。
ただ、部屋に置いてあるエッチな道具を売る販売機以外はだが…。
そもそも、こういった場所に来た事のなかった悦子にとっては、これが基準となるので他がどの様な物かは分からない。だが、やはり、この部屋は、まぁまぁの部屋である事は間違いないと悦子はそう思った。
お風呂やトイレも付いて、ベッドも二人が入るにはやや大きい。なによりも明かりが薄暗くオレンジ色にされたりと、それなりの雰囲気が施されているのが悦子を驚かせた。
部屋に入るまで一泊にしては結構な値段を払ったのではと思っていた悦子であるが、これなら下手な安いホテルに泊まるより、全然マシなのではと感心する程である。
「あの…座りませんか?」
と、しきりに部屋を眺めていた悦子に少年がそう問い掛ける。
「え、えぇ、そうね…」
そう言って悦子はベッドの端に座る。そして、少年も同じくベッドの端に座った。
「……」
「……」
二人してベッドに座った筈も距離が遠い。なんだか、さらに二人分、間に誰か座っている様である。
そう、悦子は緊張していた。ホテルがキッチリとしているだの、部屋がキチンとしているだのと考えてはいたが…。要は緊張して他の事を考えていただけなのだ。少年と出会う時よりも、ホテルに入った時よりも、悦子は何倍も緊張している。
『悦子さん』
先ほど少年に呼ばれた自分の名前。一泊するしない云々の話よりも実は悦子にとって少年に自分の名前を呼ばれた事の方が何倍も恥ずかしい事であった。
しかし、嫌という訳では無く。むしろ、恥ずかしいけれども、もっと、彼に自分の名前を口にして貰いたいとさえ思う程だ。
そして、そう思うと悦子は、どんどん欲望が高まっていってしまう。彼女はじりじりと体を少年の方にへとにじり寄らせて行く。ここまで来たんだ、ここで何もしないなんて有り得ない。
そんな事を考える悦子。そして、遂に彼女の肩が少年の肩にソッと触れた…
~続く~