この話は続きです。初めから読まれ方は「再会・・・」(その1)へ
Mちゃんが出て行った後私とIちゃんも店を出ました。
車に乗り込みエンジンを掛けようとブレーキとクラッチペダルを踏み込みギアを入れようとチェンジレバーに手を伸ばした時、その私の左手にIちゃんが右手を重ねてきました。
お互いしばらく無言でそのままで、沈黙が支配する中Iちゃんが何かを決心したように「ふぅーっ」と息を吐きゆっくりと言葉を続けました。
「先輩、あたし、明日休みなんです。それで今日はMと一緒に会社の同僚の女の子のとこに泊まるってことに事になってるか ら・・・」
と小さな声だけどはっきりと告げてきました。
Iちゃんのまっすぐで精一杯な気持ちが痛いほど伝わってきて、伝えたいことは山ほどあるのに言葉にならなくて気がついたらIちゃんを抱きしめていました。
一瞬身体を硬くした彼女もすぐに身を委ねてきて、細く華奢な両腕を私の背中に回してきました。
やがてどちらともなく見つめあいお互いの顔の距離が縮まっていき、Iちゃんがそっと目を閉じ彼女の小さな唇にやさしく口付けをしました。
本当にただ唇が触れ合っただけの稚拙なキスで、名残惜しさを感じつつもどちらともなくそっと離れ再び見つめあいました。
私が「順番が逆になっちゃったけれど・・・。俺、ずっとIちゃんのことが好きだった。高校に入ってIちゃんに会えない日が続いたけれど、三年になったら中学のときみたいにまたIちゃんが入学してきてまた一者に過ごせるって思ってた。けれど、違う高校に行ったって聞いてもう中学の頃のようにIちゃんと過ごせないんだって気づいたのと同時に自分がIちゃんのことを好きなんだって初めて気づいた・・・。ホントばかだよな・・・」
と言うとIちゃんが
「ううん、先輩は悪くないよ。あたしに勇気が足りなかったから・・・。いつも目標に向かって真剣にまっすぐに取り組んでいて、そしてやさしい先輩が好きだった。そんな先輩に部活に行けば会えてお話できて・・・。ただそれだけで十分。そう思ってた。でも、夏大会が終わってこれからは毎日当たり前のように会っていた先輩とほとんど会えなくなっちゃうんだって気づいたときすごく胸が苦しくなって・・・。このまま自分の気持ちを伝えられないまま先輩が卒業して会えなくなっちゃうなんて嫌で、だからあの夏休みの日、東京の楽器店に誘ったんです。あの時せっかくMがチャンスを作ってくれて頑張ってって背中を押してくれたのに言い出せなくて。そんな弱虫な自分が嫌で先輩に会いづらくなっちゃって・・・」
とそこで言葉を詰まらせてしまい、何かに耐えるようにしばらく俯いていました。
けれど、耐え切れなくなったのか突然しがみついてきて私の胸に顔をうずめ泣きじゃくりました。
そんなIちゃんの心の痛みと葛藤が痛いほど伝わってきて、彼女への愛おしさでいっぱいになり泣き止むまでずっとやさしく頭を撫でてあげました。
やがて落ち着きを取り戻したIちゃんは
「ごめんなさい、恥ずかしいとこ見せちゃって」
とちょっと気まずそうに照れ笑いしてました。
そして私が
「俺、今日はずっとIちゃんといたい・・・」
と切り出すとIちゃんは
「あたしは始めからそのつもりだったから・・・」
と俯きながら小さく頷きました。
つづく
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