新作映画「涙の理由(わけ)」の完成記者会見の舞台に私は今立っている。
準主役に大抜擢され、クランクインして1年半。無我夢中でやってきた。ようやくここまで来たんだ。
そして、今日で私の愛も終わりを告げる。
「主演の坂口貴子さんです」
パシャパシャパシャ
司会者の紹介と同時に一斉にフラッシュが焚かれ眩い閃光で目が眩む。
「真島京子役をさせていただきました、坂口貴子です。私にとって思い出の作品になったと思います。監督、スタッフ、共演者、プロデューサーの方々いろいろな方に感謝いたしたいと思います。ありがとうございます」
貴子さんは落ち着いた雰囲気で、在り来たりの挨拶をした。
「次に京子の恋人役古谷理子を演じた里崎りかさんです」
パシャパシャパシャ
再びフラッシュが焚かれ、皆一斉に私に注目した。私は一瞬ビクッとしながらも出来るだけ平静を装い、前を向いた。
「今回古谷理子役で映画デビューさせていただきます、里崎りかです。大女優の坂口さんと共演できて大変光栄に思ってます。プロデューサー、監督、スタッフ、他いろいろありがとうございました」
貴子さんの方をチラッと見た。貴子さんは前を向いたままいつものように押し黙ってる。
反対側ではプロデューサーの山口久子氏が私のほう見て、OKのサインを出している。
会見は質問に移った。
「この映画は、坂口さんの初のヌードということで話題を呼んでいますが、濡れ場シーン等は抵抗ありませんでしたか?」
いきなりの直球の質問だ。
「いいえ、濡れ場のシーンはこの映画自体の重要なカットですから、真剣に取り組ませていただきました。相手役の里崎さんとも充分話し合って良いシーンになったと思います」
「里崎さんは新人でいきなり女性同士の愛を描いた作品にでて、しかもお相手が大物女優の坂口さんということで、いかがでしたか?」
「はい、最初はかなりプレッシャーがありましたが、坂口さんにも演技についていろいろとアドバイスを頂いたりしながらなんとかいいものが出来たと思います」
記者会見はこんな雰囲気で進んでいく。
この映画は女性同士の愛を描いた映画だ。京子とレズビアンである理子が出会い惹かれ合い結ばれる。
しかし京子の親の反対に合い二人は離ればなれになっていく。簡単に言えばそんな話だ。
そして私は本物のレズビアンである。映画の中だけでなく貴子さんと愛し合っていた。しかしそれも終わり。
私は貴子さんとの別れが来るのを秒読みしている感じだった。この映画で初めて出会い、この映画の中で初めて結ばれ、そして映画と共に別れがくる。同じ道を歩んでいくと決めた私に、貴子さんは愛するが故の決断を下した。私もその愛を受け止める決意をした。誰にも知られず私達の愛は今日終わった。
つづく「女優2」へ