この世には、ありとあらゆる職業が存在する。
ある者はサラリーマン。その中でも営業、事務職とわかれている。
私は、地方をまわるパーティー歌手。世にいうどさまわりをやっている。
ひさしぶりに帰宅した部屋は死んでいた。誰もいない家はさみしさをいっそう増させる。
ふとPCをひらき、職業病だろうか、テーマパークやイベントが出来そうな場所を検索してみる。
どれも、これも、つまらない。自分の仕事も忙しいなりに収入はあるが、旅から旅。
そのなかでひときわ私の目を釘付けにしたブログがあった。
各地で大道芸をやっているという彼は、動画つきで色々な技を披露していた。
私はすぐに彼に興味を持ち、しばらくして彼の仕事をこの目で見てみたいと、こっそり覗きに行った。
ブログで見るよりも幾分か痩せていて、艶っぽい目をしている。
まだ話すらしていないのに……私は恋におちた。
私も同業者といってもいいだろうと名刺を渡そうとした。だが、その日に限って名刺をきらしていた。
入り口でもらったイベントのパンフレットに裏に名前、電話番号、職業を書き、2千円をつつんで
「これ、連絡先です。もしよかったら連絡をください。」おもいきったことをしたものだ。
芸人は、5000円いただくと「お金をたくさんもってらっしゃるんだ」と思い、お礼はいただいた名刺にある住所にお礼のハガキを書いたりする。一万円を越える額をこれみよがしに渡してくださる方は、そんな大金をみなの前で渡すことに喜びを感じるらしい。
3000円だとチップ感覚だろう。
そこで私は二千円、つまり個人的なアドレスや電話をしてくれる微妙なラインを選んだ。
その日の夕方、やはり彼は個人の携帯からメールをくれた。
そこからは早かった。
毎日メールのやりとりをするうちに、恋愛感情が生まれていく。互いにふたりきりで会いたいと思い出した。
おもいきって彼の住まいの近くで会うことにした。
互いに大人。
何をするか、わかっていないわけではない。
ホテルに入り、酒を飲み、体を重ねた。
息遣いが乱れ、大胆になっていく自分がとても恥ずかしい。
これまでにない絶頂を何度も味わった。
彼のものはとても熱く固く丁寧に抱いてくれた。
もう、離れられない。
それからは、互いのスケジュールをあわせて会う様になり、たまの一夜の切ない逢瀬がはじまった。
もう…離れられません。そうつぶやくと、彼は「俺も離れられません」と悲しそうに言う。
芸人として、お客さんと体をあわせるなんて、許されることではありません。
それでも狂ったように貪りあうと、色々なことがどうでもよくなり、とにかくそばにいたくてたまらない。
体がほてる会えない時間も電話で抱いてくれた。
彼に支配されたかった。
彼のものになりたかった。
寧ろ、彼の一部になりたかった。
仕事柄、連休などなく、一泊できても朝早くに出て行ってしまう。
私も同じ。
切ない思いを抱いたまま歌う歌はお客様に届き始めた。
最近色気が出たね。なんていわれて。
私たちのこんな関係がずっと続くわけがなかった。
地元では顔の割れた二人。
外で会うことは危険だった。
今では互いに知る者のいない場所を探して会っている。
この甘美な時間が永遠ならばいいのに。
そしてまた抱き合う。
上になり、下になり、深いキスをかわし、どんどん引き込まれてゆく。