ジュニアアイドル東柴優亜は、ティーン世代からオールド世代まで幅広い人気を見せるトップアイドルだ。キッズモデル時代からその容姿端麗な 姿やファッションセンスは注目を浴び、名脚本家のドラマに子役で抜擢されるとそれを発端に主演ドラマや映画が次々と決まり、アレよアレよという間にお 茶の間を騒がせる名女優として名を馳せていった。
しかし、その抜擢されたどれもが東柴優亜の納得のいくキャスティングでは無かった。何故なら、東柴優亜のその幼さ故の中性的な顔立ちと姿が仇となり、容 姿端麗で在りながらも彼女には少女としての役柄よりも少年としての役柄の方が適していると、抜擢した誰もがそう口々にしたのだ。その為、東柴優亜に回って くる役柄はモデルでもドラマでも全ての仕事が少女としてではなく、少年としての役柄ばかりで、美少女アイドルを目指して芸能界入りした東柴優亜とし てはその全ての仕事が不本意なものであったのだ。
そして、そのジレンマから来るストレスとやるせなさは日に日に増していき、その反動で東柴優亜はどんどんワガママになっていってしまう。周りにさえ迷 惑を掛ける様になった彼女をマスコミや芸能関係者は、調子に乗る名子役やら有名になりワガママになったジュニアアイドルやらと叩き始め、ファンたち さえもその失望の意を表し始める。
このままではいけないとプロダクション側も手を打ったのだがことごとく失敗に終わり、マネージャーでさえ堪えきれずに辞めてしまうことに。後任のマネージャーも誰もが嫌がり、もはや、プロダクションはこのまま消え入る彼女を見ることしか出来なくなってしまう。
遂に仕事も来なくなった東柴優亜。だが、彼女は芸能界は辞めたく無いの一点張り。プロダクション側も小さなプロダクションを東柴優亜に有名にして貰った恩もあり、直ぐには彼女を見捨てることはせず、様子を見ることにする。
ただやはり、マネージャーの後任は見つからず、仕方なく世話役に入社以来クビにはならなかったが営業成績最悪と中堅ながら窓際の冴えない末杉琢郎が抜 擢される。この男なら辞めてくれても構わないし、東柴優亜のワガママの良い捌け口になってくれるだろうというプロダクション側の作戦でもあった。
東柴優亜と末杉琢郎が初めて出会った日。色白で中肉中背の冴えない末杉に東柴優亜は直ぐに嫌悪感を露にした。プロダクション社長に抗議をしたが、彼以外にマネージャーを駆って出てくれる人が居ないと告げられ半ば怒りの思いと共に全ては自分の身から出たサビだと諦めることになった。
しかし、この末杉という男は見ているだけで腹が立たってくる。レッスンの時間を一回りも間違えたり、飲み水を要求しても用意するのに手間が掛かったりと、こんな男では取れる仕事も取って来られないのではないかと優亜は思う。
「マネージャーさん、今日の予定は?」
優亜がそう末杉に聞くと末杉は
「あっ…あ~…えっと…」
とノロノロと手帳を確認し出す。その亀みたいに鈍臭い仕草にさえ優亜は鳥肌を立たせるほど嫌悪する。そして、次第にいつもの発作の様なフラストレーションやストレスが溜まっていき、遂には末杉に暴言を吐き始める。
「あーもー、マジ勘弁して。なんでそんなに鈍臭いの?イライラするんだけどアンタみたいの見てると?」
「…ゴメン」
「ゴメンじゃないし。よくそんなんで社会人になれたよね?暗いし、キモいし、仕事出来ないし。なんでリストラされないわけ?あ、もう窓際だっけ?」
ボルテージを上げて優亜は末杉の悪口を次々に言葉にする。
「モテないよねぇー、絶対。アタシだったらアンタみたいな奴、最悪だもん。彼女居たことないでしょ?」
終いには優亜には関係の無いことまで喋り出して
「童貞でしょ?その年齢で?27、8だっけ?はっ、アンタみたいな奴、一生童貞だっつーの、アハハハハ」
まるで親の敵の様に罵倒したのであった。しかし、それを末杉は黙って聞いているだけで一言も優亜に言い返さない。表情も変えずに、ただ黙って優亜の顔を見ているのだ。
「なんか言ったら?悔しくないわけ?あ~、図星だから言い返せないの?」
何も言わない末杉に優亜は更に苛立ちをぶつける。何を澄ました顔をしているのだと言わんばかりに噛み付いていくのだ。
そうしてしばらくして、そんな優亜の悪魔の様な罵倒も一段落する。すると、やっと末杉が口を開き、優亜に今日の予定を言う。優亜はこの末杉のこういった一見クールの様な暗さも嫌いであった。まるで、自分が相手にされていない様で頭にくるのだ。なので、優亜は今日も末杉の反感を買う様な行動に出る。