出狂というわけではありません。
裸を誰かに見られてるということよりも、誰かに見られているかもしれない状況に快感と興奮を覚えるんです。
要約すると“脳内妄想”、あるいは“脳内麻薬”でしょうか。
クラスの男子に、大学のサークル仲間に、公衆の面前で裸にされてあちこちを弄られて、よくそんなシチュエーションで自慰に耽りました。
そんな時、必ず思い出すのが6年生の夏のこと。
一生忘れられない恐怖の体験です。
6年生の頃、それこそ露出狂の一歩手前まで行っていました。
もちろん他人に裸を見せる勇気があるわけでもなく、誰も来ないところで裸になって一人ドキドキしている類です。
当時の私には一つの目標がありました。
『学校の中で裸になる、そして全裸で廊下を歩き教室に入る』
そして7月のある日、それを実行します。
そろばん塾の帰り道、陽は沈んでいましたが、自転車ライトを点けるまでもないくらい明るかったのを覚えています。
スニーカー、短いソックス、ふわりとしたスカート、プリント入りパンツ、ワンポイントの入ったピンクのシャツ、ビーズのついた髪留め。
それが、私がその日、身に着けていたもの全てでした。
昨今、学校に侵入しようとすれば警備会社が飛んで来るでしょう。
私が子供の頃もきちんと施錠されていましたが、クラスの男子に聞いた話で学校に内緒で入る方法を知っていました。
金網に囲われた貯水槽の裏側のドアが下駄箱の傘立ての裏のドア通じていたんです。
まだ明るさが残る帰り道、自転車を向かいの区民館にさりげなく隠すと、周りに誰もいないことを確認して校内に駆け込む。
林に囲まれた駐車場を駆け抜け、体育館伝いに連絡通路に隠れる。
(ああ、早く裸になりたい)
すでに興奮して心臓がドキドキ言います。
そろばん塾のカバンは邪魔だし、帰りに持って帰ればいいやと連絡通路の入り口の前に立てておく。
もう一度周囲に誰もいないのを確認してから金網をよじ登り、ドアに手をかけました。
スカッと、取っ手が力なく空を切る。
(開かないのかな?)
不安に思った私が取っ手を引くと、ズ、ズ、ズ・・・と錆びた音を立てながらドアが開きました。
ホッとしたのと同時に、いよいよ校舎に侵入することに胸の高鳴りを覚える私。
なるべくゆっくりと閉めたドアは、ズンと鈍い音を立て私を神秘の空間に閉じ込めました。
下駄箱、入り口のガラス戸から中が見えることに不安を感じ、その棚の間へ。
もう一列ずれた自分の組の棚の前に立つ。
当然だけど、全員の白い上履きのみが整然と並べられている様に感動してしまう。
自分の下駄箱にスニーカーを突っ込み、靴下も脱いだ。
裸足で歩く廊下はひんやりとして気持ちよかった。
ペタペタと階段を上り、2階の一番奥の方にある6年1組の教室へ。
一応、周りに気を配る。
窓から姿を見られてはまずいし、自分が知らないだけで実は先生がまだ残っているという可能性もなくはない。
ただ歩みは早かった、途中からは小走りになっていた。
なるべく音を立てずに教室の戸を開け中に入る。
赤と黒の入り混じったいつもと違う空間に胸がキュンとした。
自分の席に着く、ドキドキしながら周囲を見回す。
時計の針は6時50分をさしていた。
ゆっくりと服を脱ぎ、畳んで机の上に置く。
髪留めも外す。
目を瞑るとクラスメイトの嘲笑が聞こえてきました。
「裸で恥ずかしくないのー?」
「◯◯のアソコ、ボウボウじゃん」
「きちんとワレメ見せろよ」
「見られて悦んでるなんて変態じゃないの?!」
教室をしばらく徘徊し、廊下に出る頃にはエッチな汁が股を伝っていくのがはっきりわかりました。
「うわ、1組の◯◯が裸だぞ」
「みんなー、来てみろよ!」
隠したくとも隠せない私は裸を皆に見られっぱなし。
そして階段を犬のように四つん這いになって上っていく。
「肛門が丸見えだー」
「ワンちゃーん、足上げてオシッコしてー♪」
クラスメイトの嘲笑が快感で、体に電流が走る。
(ああ、私は変態じゃないんです。でも、隠しては駄目なんです)
自分にそう言い聞かせながら3階へ。
そして階段脇の男子トイレに入りました。
裸足でトイレに入ることには少し抵抗がありましたが、脳内のクラスメイトが私に命令するんです。
初めて入る男子トイレ。
個室の他に小用の便器が3つ並んでいます。
教室が並ぶ2階と異なり、あまり使用されていない清潔感がありました。
「おい、◯◯をトイレに連れ込んでエッチなことしようぜ」
クラスの男子達の無数の手が私に伸びる。
キスをされ、膨らみはじめの胸を揉まれ、乳首をつねられ、お尻を撫でられ、肛門をほじくられ、クリトリスを転がされ、膣口に指を入れられ・・・そして・・・。
ああ、数人の男子に抱きかかえられると足を広げられ、体操服の半ズボンを脱いだその下からは凶悪な形をしたチンチンが私のアソコに迫ってきて・・・。
夢中で自慰に耽る私、小学校の男子トイレで、素っ裸でオナニーしているんです。
まさにその時でした。
ズゥゥゥン。
(何?)
遠くの方でドアの閉まる音が聞こえたんです。
アソコをほじくる指が止まります。
夕闇迫る3階の男子トイレ。
一切の音を立てぬよう耳を澄ます。
(何かの聞き違いであって!)
そう念じながら個室の中に入る。
ゆっくりとドアを閉め、鍵を掛ける。
ズゥゥゥン。
さっきよりはっきり聞こえました。
ああああ、重たい防火扉が錆びついたような音を立てて閉まる音・・・。
確証はありませんでしたが秘密の入り口のドアに違いありません。
個室の隅にしゃがみ込む私。
(見つかったら・・・)
そう思うと体が震えだしました。
言い訳のしようがありません、当然親にも知らされてしまうし、級友も知ってしまうし、もう明日から真っ当な人生が送れなくなる・・・。
自分のやったことを後悔する。
でも、それが遅すぎることも同時に理解しました。
ズゥゥゥン。
3度目の音。
もう間違いありません、誰かがドアを開閉しているんです。
(先生だったら・・・、クラスメイトだったら・・・、泥棒だったら・・・)
様々な憶測が頭の中を駆け巡ります。
そして自分が納得できる一つの結論に達します。
(秘密の入り口を知っているのはクラスの男子だけ・・・)
男子が、不法に学校に侵入した上に裸で徘徊する私を見つけたらどうするでしょう?
襲われて滅茶苦茶される。
それをネタにゆすられ、毎日のようにエッチな奉仕を強要される・・・。
いえ、それならまだ我慢する自信があります。
一番怖いのは、それを先生にクラスメイトに、そして親に報告されてしまうこと・・・。
連絡通路の入り口には私のカバンが、下駄箱には私の靴が置いてある。
それだけ見れば、私が校内にいることがわかってしまう・・・。
そして教室には私の服と下着が置いてあって・・・。
(ああああ・・・)
もう絶望的でした。
(ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ・・・)
私は神様に祈りました。
連絡通路の入り口と3階の男子トイレは、校舎のちょうど対角線の正反対になる。
それでも、男子達が徘徊しながら来たとしても10分ほどしか掛からないでしょう。
(ああああ、こんなことしなきゃ良かった)
トイレの個室にうずくまり微動だにしない。
汗と冷や汗が一緒になって肌を這う。
それがエッチな汁と一緒になって股間から床に落ちる。
(こんな姿を見られたら絶対に言い訳できない)
せめてトイレに入って来ないことを祈りつつ隠れ続ける私。
耳を澄ませても足音が近づいてくる感じはしません。
(今頃教室で私のスカートやシャツやパンツを見て歓喜してるんじゃ・・・)
こんな状況で体が再び火照りだすんです。
その時、私にはもう一つの悩みがありました。
帰宅時間です。
そろばん塾が終わるのが6時半くらい。
いつも8時に帰宅する父に合わせて夕食になるので、帰り道にある小さな本屋さんで立ち読みをしてから帰るのが私の行動パターンでした。
(今、何時なんだろう?)
トイレの中なので時間がわかりません。
最後に見たのが教室で見た6時50分。
すっかり暗くなった外を見る限り、7時半くらいにはなってるいるんじゃないかと想像できました。
(早くもう一度ドアの閉まる音を聞かせて)
徘徊することに満足したら出ていくだろう。
下駄箱の靴や教室の服が見つからなければ私を探すこともないだろう。
自分に言い聞かせるかのように願い続けました。
最初にドアが閉まる音が聞こえてから何分経っただろう。
10分?20分?それとも5分?
真っ暗なトイレの個室の中でうずくまる私。
帰宅時間の迫る焦り。
裸の私が見つかって襲われるかも知れないという恐怖。
そして、夜中の学校という純粋な恐怖。
後悔と、後悔と、後悔と、後悔と、ただ後悔だけが頭を回航し、足の震えが真っ直ぐ立つことすら許しません。
もうトイレの中まで入ってきていて、個室の外に皆で待ち構えているんじゃないのか。
そんな不安を感じ、床に顔をつけ、トイレの下の隙間から外を窺う。
誰もいないことにホッとするが、上からの視線を感じ天井を振り向く。
闇に目を凝らす・・・、誰もいなかった。
トイレの中にはいない。
そんな当たり前のことを確認しつつ、ゆっくりと鍵を開けて個室の外に出る。
トイレのドアに耳をつけ、廊下の足音に聞き耳を立てる。
足音は聞こえない、話し声も聞こえない。
私を勇気を振り絞って四つん這いで、それこそ犬のような姿でトイレから外に出ました。
3階の廊下、緑の非常灯がぼんやりと照らす限り誰もいなかった。
震える足を引きずりながら階段を這って下りていく。
手摺の下の鉄の格子のヌルリとした感触にドキッとするが、ついさっき自分でつけたことを思い出す。
階段の途中、踊り場の辺りでもう一度よく耳を澄ます。
静かなことを確認してから2階側へと下りていく。
少し戸の開いた教室に嫌な予感を感じる。
自分の閉め忘れだと、自分に言い聞かせて戸を開ける。
真っ暗な教室の中、脱いだ時と同じ状態で服が机の上に畳まれていました。
「あぁぁぁぁ」
口から安堵の溜息が出ました。
大急ぎで服を着ると、駆け足で廊下を駆け抜け来た時と同じ状態の靴やカバンに再び安堵を覚え、大急ぎで家に帰りました。
服さえ着てしまえば、学校に入った理由は「忘れ物」で済むから。
8時半少し前、家に着く。
「また立ち読みしてたんでしょう」
母親の屈託のない表情にホッとする。
当たり前のようにご飯を食べ、お風呂に入り、テレビを観て10時に布団に入った。
その時、我慢していたものが一度にこみ上げてきて、涙が止まらなかった。
ほんの2、3時間前の出来事を思い出して。
翌日もその翌日もその後も、学校に入ったことを問われることはありませんでした。
それから十数年、大学に進学して、就職した今でもあの夜のことを思い出します。
あの時クラスの男子達が集団でトイレに踏み込んできたら。
教室で待ち受けていたら。
侵入したことがバレていて、それをネタにゆすられたら。
入ってきたのが私が入っていく姿を見つけてついて来た変質者だったら。
先生だったら・・・。
様々なシチュエーションで自慰に耽ります。
でもあの日、入って来たのは誰だったのか。
そもそも聞こえた音は秘密の入り口のドアの閉まる音だったのか。
全ては謎のままです。