この間、久々に長期の休みが取れたので俺は南の島へ旅行をしてきた。そこは海外の小さな島でほとんど知られていない秘境中の秘境の様な場所だった。
最初、その島の港に着いた時、文明のぶの字も無いような鬱蒼とした緑が目の前一杯に広がったていたのでとても驚いてしまった。しかも、港と言ってはいるが、そこはどう見てもお飾りのボロい桟橋があるだけの砂浜。船も着くなり俺をさっさと降ろし、一時も停留する事無く直ぐ引き上げて行ったのでますます不安は募った。
長期滞在を目的にしていたので荷物も多く、俺はボロい桟橋にぽつんと1人。宿泊するはずの宿の人間が迎えに来る手筈なのだが、人の気配は無く。しばらくして、やっと目の前の森から草木を別けて人間が…。
「友引さんですか?」
「…は、はい」
しかし、やって来たのは、なんと少年。薄着のシャツに短パンで色黒の如何にも南の島の元気少年といった感じの子。
「こんにちは、僕、テルンです」
「はぁ…こんにちは」
流暢な日本語でテルンという少年が俺に挨拶をする。
「ごめんなさい、お待たせしました。ビヤン…あ、おじいちゃんが迎えに行くはずだったんですが、途中で足を挫いてしまって…」
「あぁ、それで…」
当初の話では現地のおじいさんが宿の主人という事だったので俺も迎えはおじいさんだと思っていたのだが、どうやら、そのおじいさんが山を降りて来る途中で足を挫いてしまい、代わりに孫であるこのテルンという少年がやって来たらしい。
「…日本語上手だね?」
なるほどと先ほどまでの不安と疑問が解けた瞬間に、俺は直ぐまた気になる疑問をテルン少年に問い掛ける。
「あぁ、僕のお父さんが日本人ですから、僕も小さい頃から少しずつ勉強してるんです、日本語…」
確かにこのテルン少年からは日本人的容姿がどこか漠然と見て取れた。しかし、やはり外国人とのハーフでその肌の色や姿は日本人には無い美しさがあった。
というよりも、このテルンという少年、服装などでパッと見て印象的に少年と解ったが、よくよく見ていくとどこか中性的で顔などは少女そのものの様だった。
「どうかしましたか?」
「いや…なんでもない」
しかも、その事に気付き意識し始めると彼の物腰の柔らかさや華奢な体つき、やや高めの澄んだ声など、もはや彼を少女としか見られなくなっていくという程。
と、気が付くと俺の胸が何故かドキドキと少し早く鼓動していた。