雨は時に人を・・・センセーショナルで甘美な感情を抱くものへと変貌させる魔力を秘めている――― * 玲菜に初めて逢ったのは、真夏の暑さがねっとりと体に纏わりつく様な夜
雨は時に人を・・・センセーショナルで甘美な感情を抱くものへと変貌させる魔力を秘めている―――
*
玲菜に初めて逢ったのは、真夏の暑さがねっとりと体に纏わりつく様な夜の、どしゃぶりの雨の日だった。
私は、深夜に何故かフルーツヨーグルトが無性に食べたくなり、近所のコンビニに軽装で出掛けた。
湿気を帯びた嫌な空気が急な雨を予想させたが、私は近所だからと高を括って傘を持たずに、ミュールをカンカンと鳴らして
アパートの階段を降りて行った。
無愛想且つ、マニュアル通りの口調でレジをこなす若い男性店員に心でため息をつきながら、お目当ての品を
手に家路を急いだ。
最初はポツポツと小雨が降ってきたなと思っていたが、それはやがてどしゃぶりとなって、私の足と共に、先に進む意思をもブロックした。
「もぅーーーなによっ!突然降り出すなんて反則じゃん!」
自分勝手な文句を吐き出しながら私はどこか雨宿りできる場所はないかと、キョロキョロと辺りを見渡し、羽織ってきたカーデガンで頭を覆い
ながら何とか高架下を見つけ、早足で逃げ込んだ。
「あーーあ・・・びっちょりだよぅ・・・さむっ!・・・早く雨、止まないかなぁ・・・」
そんな他愛無いことをぼんやり考えながら、濡れた体をハンカチで拭っていた。
「あのぅ・・・もし良かったら、一緒にはいっていきませんか?」
美人と言うよりは、どこか愛らしさと幼さを残した20歳前後とおぼしき女性で、肩も腰も華奢で繊細な印象を受けた。
薄化粧だが、目や眉のくっきりした・・・それでいて人目を引くと思わせるだけの魅力に彼女は溢れていた。
淡いピンクのグロスだけが塗られた唇は妙に艶っぽく、同性から見てもドキっとさせられるほどだった。
「えっとぅ・・・いいんでしょうか?私としてはとっても嬉しいんですけど・・・あっと、私・・・あさみって言います。この近所にお住まいですか?」
「え?ええ・・・まぁ・・・。私は玲菜って言います。大学生してます。お姉さんも・・・この近所なんですか?これ良かったら使って下さい。」
そっとハンドタオルをさりげなく差し出してくれた。
「うん、そうそう・・・この格好見たら・・・遠くから来たって思えないよね?そりゃ・・・。タオル、ありがとね!たすかるわぁ・・・」
クスっと悪戯っぽく、可愛らしい笑顔を見せた彼女に、私は二度目のドキっを感じてしまっていた。
都会のカオスの闇に咲いた、可憐な一輪の白い花・・・そんな印象的な何かを彼女は持っていた。
「お姉さんって・・・運命って信じますか?いきなりですいません・・・」
「いいよぅー気にしなくて・・・運命かぁ・・・私ってこう見えて結構ロマンチストだったりするから、信じる方かも」
「私も・・・運命って・・・この世で起こる全ての事柄って、全て必然だと思うんですよね・・・シンクロニシティーって言うのかな?」
そう俯き加減で澄んだ声で呟く彼女には、まさに儚さと脆さが同居しているかに思えた。
「シンクロかぁ・・・そうだね。運命を自身の力でより良い方向に手繰り寄せられたら幸せな事だよね・・・最近いい事ないから・・・」
「同感です・・・ほんとに、既に決まってしまっている運命を自らの手で変える事ができたら・・・」
そう言ったまま彼女は黙り込んでしまった・・・・
「だいじょうぶ?ごめん・・・私、何か変な事言っちゃったかな?ほんと、がさつでダメなんだよねーー私って。」
寂しげな表情の彼女が何だか愛しいような母性本能がくすぐられたのか、彼女の栗色の柔らかそうな髪を優しく撫でて顔を近づけてみた。
柑橘系の爽やかな香が鼻腔をくすぐった―――
いつしか激しい雨は、弱々しい小雨へと変わり、優しい旋律を奏でる雨音に、私は安堵と入り混じって不思議な感覚に全身を支配されつつあった・・・・
玲菜の小花模様の乙女チックな傘に仲良くおさまり、私達は濡れたアスファルトの上をおしゃべりしながら
歩き出した。
「中々止まないね~、あっと・・・そこの角を曲がったとこが家だから・・・家って言っても一人暮らししてる、
質素なアパート暮らしだけどねっ。玲菜ちゃんのお陰でほんっと助かったよ!ありがとね。走ってくからもういいよ、
夜道は危ないから気を付けて帰ってねっ」
玲菜は何故か沈んだような、寂し気な表情で私の顔をじっと見つめていた。
「私・・・このまま家には帰りたくないです・・・お姉さんとこ寄って行ったらだめですか?・・・・」
アーモンド型の潤んだ瞳に私が映って、そのまま彼女の瞳の中に吸い込まれてしまいそうになった。
「えっとぅ・・・あのね、玲菜ちゃん。お姉さんとこ部屋汚いんだよね・・・とてもお見せ出来る代物じゃなくって・・・
ごめんね!今度絶対埋め合わせするから!約束するっ、またメールするね♪じゃっ・・・おやすみっ」
エイっ!と彼女の愛らしい傘から飛び出して、足元が濡れるのもお構い無しに、私は何かを吹っ切るように
後ろを振り返らずに駆け出した―――
角を曲がったところで、民家の塀からそーーっと彼女の様子を窺ってみた。
華奢な肩が小刻みに震えてるように見え、私は後悔の念で一杯になった。
(ごめん・・・玲菜ちゃん。もしあのまま・・・狭い部屋に二人っ切りにでもなったら・・・私のこのドックンドックン
鳴り響いてる心臓の鼓動聞かれちゃいそうで怖かったんだ。何でだろう・・・彼女は女で私も女・・・
なのに何でこんなにもときめいてる?どうかしちゃったんかな?私・・・)
ラビリンスに迷い込んでしまった私・・・・確かな答えなど見出せぬまま、出口を探し彷徨い続けて一夜が過ぎた。
*
数日後、私は一人ふらっとファミレスに立ち寄った。
窓際に腰掛け、私は何とは無しにぼんやりと窓の外を行き交う人々を眺めふぅーっと一つ深い溜息をついた。
目の前に置かれた、コーラの上に乗っかったまん丸アイスをストローの先で突っついてシュワシュワっと
泡立つ様を小首をかしげて眺めていた。
「れいな!ここにしようよっ・・・」
(うん?れいな?まさ・・・か・・・)
「まさと君ったら・・・そんな大きな声出したら恥ずかしいでしょ?」
ドンピシャだった・・・あの玲菜ちゃんが若く、いわゆるイケメンって奴と私の真横のボックス席に腰掛けた。
思わず顔面をプイっと窓側に方向転換させた。
(どうしようーー・・・ここは挨拶すべきか・・・しらんぷりすべきか・・・)
そんな事を想い巡ってると・・・・
「あれ?あさみさん?やっぱあさみさんだぁー偶然ですね!この前は楽しかったです、おしゃべり一杯できて・・・
あっと、彼は同じ大学の後輩で・・・まさと君。同じゼミ取ってて・・・単なる友人の一人で・・・」
「おいおい・・・単なるって酷いよなぁ~・・・少なくても俺は玲菜の事、ステディーな関係って思ってるんだけどなぁ~・・・ってか初めまして!お姉さんの事はこいつから良く聞かされてましたっ。」
(こいつって・・・マジむかつく奴。呼び捨てなんだっ・・・玲菜ちゃんの事。ふーーん・・・何かいやーーな感じ)
「ほんっと・・・偶然が続くよね~。これも例のシンクロってやつかな?玲菜ちゃんが言ってた・・・」
「玲菜、うれしい!・・・お姉さんあれ、覚えてくれてたんだ。やっぱ運命の出会いだったのよね♪ お姉さんとはっ」
心臓の鼓動が早鐘を打ち始めた―――
「ねーねー、お姉さん?そっちの席、移ってもいいですか?いいよねっ」
さっさと移動を始めるイケメン君。(だ~れがいいって言ったのさっ・・・)
「う・・・うん。いいですよっ。一緒の方が話しやすいよね・・・」
(心にも無い事言っちゃったぁ・・・でも、何で私ってさっきからこの男にいらついてるんだろ?嫉妬?まさかっ・・・)
玲菜はアイスレモンティーをストローを使って、品良く飲んだ。
伏し目がちになった彼女の長い睫毛が二三度微かに震えた。
マッチ棒何本乗るんだろう・・・羨ましい限りだ。 私のなんて・・・一本も無理か。
その時、彼女の携帯の着信音が鳴った。
「ちょっと、ごめんなさいね・・・すぐ戻るから・・・」
彼女は携帯を持ったままその場を離れていった。
(気まずい・・・苦手男と二人っ切りは。・・・・早く戻って~玲菜ちゃんっ!)
「あのさぁ~・・・もう分っちゃってると思うんだけどぉ~俺、玲菜に惚れてんだよね!お姉さんの事、彼女凄く
気に入っちゃってるみたいだけどさっ。この前なんか彼女、俺の為にって手作りケーキくれちゃって・・・
まいったなぁ~あっはは・・・」
引き攣ったような笑顔が偽りを助長させてるぞっ・・・私の中でファジーだった感情が今、目前にいるこの
男によって、確信の持てるものへと私の背中を押した―――
自身の中に長い間、ひっそりと眠っていた同性への興味や憧れみたいなものが、雪解けを迎えたように
静かにそして滑らかに私の心の内部へと沁み出していった。 潜在意識の中では微かな自覚はあったかに思う。
ただそれを素直に認めるのが怖くもあり、その事で今まで生きてきた意味や意義までもが色褪せたものへと
変わってしまいそうで・・・
私は臆病な人間だったと、改めて自覚した。
あっさりと認められた今は何だか胸の奥がスーーっとして、夏のギラギラと照りつける太陽下でも爽快に
スキップでも出来そうだった。
「ごめんね~急に席立っちゃって・・・今、ちょっと友達の相談事に乗ってあげてて・・・」
「そんな、いいよ~気にしなくてもっ。あっと・・・私、この後バイト入ってるから。じゃぁまたね、玲菜ちゃん。
今度はゆっくり‘ふたり‘で会って、一杯おしゃべりしようね!じゃぁ・・・」
自分でも中々のイジワル女だな、私って・・・と二人を背にし、ペロっと舌を出してみた。
「え?もう行っちゃうのぅ?寂しいなぁ・・・じゃあーまた連絡入れるね、今日は会えてほんと嬉しかったですっ!」
文末にピンクのハートマークが付きそうな甘ったるい声が私の背中をそっと撫でた―――
*
夜間の居酒屋でのバイト帰り、コンビニで立ち読みしてた女性週刊誌の『性同一性障害』の文字に
そこだけスポットライトが当たったかの様に鮮明に私の脳内に記憶されていく。
読み進めていくうちに、今まで自分がいかに無知だったかを思い知らされる。
(そうなんだ・・・何て運命の悪戯ってこんなにも哀しいんだろう・・・)
お気に入りのフルーツヨーグルトとクロワッサンの入ったレジ袋をぶら下げながらふと、玲菜の言っていた
シンクロの事を思い返していた。
(もし森羅万象、起こる全ての事柄が単なる偶然では無く、必然だったとしたら・・・私と玲菜があの雨の夜に出会った事も・・・)
さっきまで読んでいた週刊誌のページを捲る様に、次から次へと文字たちの洪水が溢れ出し、脳内巡回していくようだった。
あの雨の夜に、高架下で濡れた体のままぼんやりと見つめていた高層ビルの天辺で明滅を繰り返していた赤い照明が瞼の裏で蘇ってきた。
と同時に玲菜の凛とした眼差しや、どこか儚げで寂しそうな表情が妙に愛しく思え、今すぐにでも会いたい
感情が確かな意思を持って芽生えていた。
その夜に見た奇妙な夢の中で、何故か私はシンデレラに出てくる王子様になっていて、かぼちゃの馬車ならぬ
真っ白な卵型の馬車に乗って、愛しの玲菜姫を探し求め、暗い森の中をぐるぐると彷徨っていた・・・
*
確か、仏教の古い教典か何かに人類には四つのジェンダーがあるって記されてなかったっけ?
なんて事をぼんやり考えてたら、愛しの玲菜姫から携帯メールが入った。
「こんにちはぁ~今日って会う時間、ないですか?今日の講義、急に無くなってしまって・・・
そしたらお姉さんの顔が浮かんできて・・・すっごく会いたくなっちゃったんです♪ 我が侭言って
ごめんなさいね><」
( 胸キュンって・・・こうなるんだっ。 やっぱ好きなんだよね、玲菜のことが・・・)
早速、ハートマークは入れなかったが、オーケーのレスをした。
二人っ切りで会ったら、何かが始まる・・・・そんな予感に私は心が震えて仕方が無かった。
*
玲菜の父親の所有だと言う別荘へ続く白樺林の広がる夏の爽やかな風をタクシーの開け放った窓から
受け、私は逸る気持ちを抑えつつ車窓を流れ行く景色を眺めていた。
さすがに避暑地だけあり、車内のエアコン要らずで清々しい気分をしみじみと味わっていた。
「もうすぐ着くから。別荘、お姉さんが気に入ってくれるといいなっ!」
そう囁く玲菜の横顔は見事なEラインを形どり、スッと通った鼻筋と薄桃色の唇が少女らしさと妖艶さを醸し出しているようで、私は思わず見惚れてしまった。
「あっ・・・うん。玲菜はお嬢様だからきっと素敵な別荘なんでしょうね!楽しみだなぁ・・・」
白樺林を抜けると夏の眩い陽光を受けて煌く湖面が美しい湖が見えてきた。
「わぁ~湖もあるんだぁ・・・素敵なロケーション♪ ボート遊びなんかも出来るのかな?」
「うん!もちろん。お姉さんと一緒に乗れたら嬉しいなっ。あ・・・ほら、あそこ・・・久しぶりだわ、ここに来るのは・・・」
白と言うよりはややクリーム色と言った感じの、瀟洒な洋館だった。
「すてきぃ・・・玲菜ちゃんって本物のお嬢様なんだね!・・・いいなぁ~うちなんて平凡を絵に描いた様な家族だから」
何だか場違いな所に来てしまったようで、少し緊張気味になった。
「そんな・・・普通よっ。大学の友人の中にはもっと凄いセレブも結構いるしねっ」
(そうなんだぁ・・・何か住む世界が違うって感じ。でも玲菜ちゃんはお高くとまってないし・・・いい子だよなぁ」
自分の性格が頑固で素直じゃない天邪鬼だったりするから、彼女の天真爛漫で純粋な部分にはやはり強く
惹かれるものがあったりする。
別荘室内に設えられた家具類や調度品などどれもセンス良く、また値の張るものだろうと思わせられた。
特に、暖炉と共に置かれていた深緋色のゆったりとした革張りのソファーが何故か私の興味を引いた。
天井から吊るされたクリスタルのシャンデリアが居間の豪華さをより象徴させていた。
「今夜こっそり湖のボートに乗っちゃおうか?何か冒険したくなっちゃって・・・私ってあんまり型破りな事って
今までした事ないから・・・」
「夜の月光の下でボート遊びかぁ・・・いいね!楽しそう・・・」
玲菜が今まで生きてきた人生は何不自由ない光に満ちたものだったのだろうなぁと一人妄想を膨らませていた。
私達は湖畔に建つ、瀟洒なレストランで美味しいイタリアンのフルコースを堪能し、湖畔の水際を食後に、肩を並べて散歩していた。
「今夜は月光が、篝火の代わりになって湖面を薄明るく照らしてくれてるから・・・ボートも漕ぎ易いかも」
優しい微笑みを浮かべて玲菜が呟く。
月明かりの下で見る玲菜の姿もまた一段と艶やかで、憂いを帯び伏目がちの表情に私は思わず理性を失いかけた。
「あっ。あそこ見て!ボートあるよっ・・・神様からのプレゼントかな?ねっ・・・乗ってみようか?玲菜ちゃん」
「うん、もちろん・・・お姉さんとだったら玲菜、どこにだってどんな危険な事だって、できちゃう気がするの・・・」
ハートをぎゅっと、鷲づかみされた気分だった。
私がオールを漕いで、少しずつ湖の真ん中辺りまでゆっくりとボートを進ませた。
「お姉さん、ボート漕ぐの上手ねっ。ごめんね・・・お姉さんばっか漕がしてしまって・・・」
「平気だよ~こんなの・・・昔、家族旅行で湖行った時、張り切って漕いだはいいけど、上手く漕げなくて
泣きそうなった事あるよっ・・・でも良かったぁ、まだ何とか漕げて・・・」
どこからともなく白い霧がわいてきた―――
何となくだが、私達二人に纏わりついてくる様で、それは幻想的でもあり神秘的でもあった。 霧が立ち込め辺りの景色がぼやけ、視界が妨げられる。
急に不安感が襲いかかる様でオールを漕ぐのを止めた。
「急に霧なんて・・・何だか怖いわ。お姉さんの隣に移ってもいい?」
向かいに腰掛けていた玲菜が泣き顔で訴える。
「うん、いいよっ!ゆっくりね・・・危ないから・・・」
隣に移ってきた玲菜の間近で見る顔は少し青ざめて、華奢な肩が小鳩の様に震えていた。
「大丈夫?寒くない?あっ、これ・・・羽織ってね。」
私は風邪でも引かせたら大変と、薄手のカーディガンを玲菜にそっと羽織らせた。
「ありがとう。わたし・・・あさみお姉さんの事が好きっ!でも・・・きっと変に思うよね・・・女性を好きなんて・・・」
花びらの様な可憐な唇をきゅっと噛んで、頬を赤く染めながら切なく話す彼女を見て、私の中で何かが弾けた―――
無意識に玲菜の細い肩を引き寄せ、抱き締めていた。
長く艶やかな少しウエーブのかかった栗色の髪を優しく撫でながら私は秘めていた想いの蓋を静かに
開いていった・・・・
「玲菜ちゃんの気持ち、凄く嬉しいよっ!でも、私なんかでいいの?全然女らしくないし・・・がさつで男っぽい
しさっ。でも私も玲菜ちゃんの事が好き・・・女性にこんな気持ちになったの初めてなんだ・・・」
驚いたように玲菜はセピア色の濡れた瞳を大きく見開きながら私を見つめた。
不意に彼女に対する愛しさが込み上げ、柔らかそうな薄桃色の唇に、愛情一杯の優しいキスを落とした。
初めて出逢ったあの雨の日の彼女の匂いがした。そう柑橘系の爽やかな香りが・・・
徐々に優しく舌先を彼女の咥内に差し込んでゆく。
閉じられた彼女の長い睫毛が微かに揺れて、若い女性の瑞々しい色香に頭の中が痺れるような感覚を覚えた。
ぬちゃぬちゃと淫靡な音色を伴って絡み合い、貪り合う二人の艶かしいまるで生き物の様な舌。
玲菜の切なげな喘ぎがひどく私を興奮させ、あそこから愛液が滴るのを本能のままに感じていた。
(玲菜のあそこも私と同じ様に濡れてるのかな・・・)
悪戯心と加虐心が混同した何とも言えない感情に支配され、私は玲菜の桜色のミニフレアースカートの裾から
右手を忍ばせ、小さめのショーツの中へと指先を滑らせていった・・・
「あっ・・・恥ずかしいっ!でも・・・玲菜、お姉さんにだったら何されてもいいの・・・あぁぁ・・・」
小鳩のように震えながらそう訴える彼女を、心底愛らしいと思った。
このまま強くずっといつまでも抱きしめていたいとも。
忍ばせた指の腹で玲菜の割れ目を上下になぞってみる。
彼女の愛液を指先で掬い絡め、少しずつ秘肉に塗り広げてゆく・・・・
「あうっ・・・ふぅん!・・・はぁっあぁ・・・」
徐々に荒く切なさを増してゆく玲菜の喘ぎ声は艶っぽく、甘く芳醇な香をも発するようで、私の情欲も昂ぶりを益々露呈させてゆく―――
「可愛くて愛しい玲菜・・・誰にも触れさせたくはない、私だけのもの・・・」
彼女の耳元で囁き、耳朶を甘噛みしてみた。
「あんっ!・・・ダメなの・・・玲菜、耳が・・・感じて・・・」
私はそんな彼女の言葉を無視して、耳の穴を執拗に嘗め回した。
「ひゃぁっ!・・・いやぁん・・・ああぁぁ・・・」
玲菜の華奢な体がクネクネと撓る。
彼女の体の隅々まで感じさせて、蕩けさせたい感情がゆらゆらと翳ってゆく。
彼女の秘肉がヒクヒクと痙攣して愛液が溢れ出し、私の指を妖しく濡らしてゆく・・・
「玲菜を私の指で逝かせたいなっ・・・ダメ?こんな場所じゃイヤ?こんなに濡らして・・・エッチな玲菜も可愛いよっ!もっともっと感じさせてあげるから・・・」
「はぁん・・・ど・・・こだって・・・いいのっ。玲菜はあさみお姉さんとならどこだっていいのっ。逝かせてっ!・・・おねがい・・・」
私は濡れそぼった彼女の蜜壷に長い指先をズブズブと侵入させてゆく。
一段と大きく変貌した彼女の喘ぎや仰け反ったしなやかな体を舐める様な視線で犯してゆく。
私は時折、愛撫の指先を止めたりして焦らしながらも可愛い玲菜を徐々に追い詰めていった。
「お願いっ!お姉さん・・・玲菜・・・イキたいのっ・・・お姉さんに辱められてイキたいのっ・・・」
私は敢えて返事はせずに、口元に不敵な笑みを浮かべて彼女を熱い眼差しでじっと見つめた。
玲菜のしなやかな体がビクンっと跳ねる度にボートがゆらゆらと揺れて・・・私は今もしこのまま二人が
湖深くに、共に沈んでしまったとしても構わないと・・・・そんな刹那感に捉われていた。
片方の手で玲菜の薄手の真っ白なブラウスの中に息づく、形の良い柔らかな乳房を揉みしだきながら、
硬くしこった可憐な乳首を二本の指の腹で擦ったり摘んだりした。
「玲菜のおっぱい、可愛いね・・・ほら?もうこんなに乳首も硬くなって起ってるよっ!一杯感じてくれてるんだぁ・・・
気持ち良くさせてあげるからね!玲菜のいやらしいイキ顔見せて欲しいなぁ・・・」
私はぐちゅぐちゅと卑猥な音を一層加速させながら、蜜壷の中の指を一層激しく動かした。乳首への愛撫も
入念にしながら・・・
「もうっ・・・もうダメぇーーあんっ!玲菜・・・イキそうなの・・・気持ちいいのっ・・・あうぅぅぅ・・・・イクぅぅーー!!」
玲菜は何度もビクンビクンっと体を跳ねながら、生脚を痙攣させて達してしまった。
私は普段の清楚な彼女も、今目の前にいる妖艶な魅力に溢れた彼女も全てが愛しく、ずっとこの先も一緒に
彼女と時を重ねていけたらと、心の底から強く感じ余韻に浸っていた―――
不意に風に押されたのか、白く靄っていた霧が流されていった。
「大好きなあさみお姉さんには私の負の部分も含めて全てを知ってて
もらいたいから・・話しておきたい事があるの・・・」
戸惑う表情の中にも凛とした強い意志が垣間見え、楚々とした外見とは異なる彼女の潔さみたいなものに
私はきっと惹かれたんだな・・・とそう素直に思った。
「昔ね・・・玲菜が高校に上がったばっかの頃・・・姉の彼氏が学校帰りに車で待ち伏せしてたみたいで・・・
お姉さんの事で大事な話があるからって、でもワナだったんだ。そのまま強引に・・・初めてだったしショックも大きくて・・・
それ以来、男性が近寄るだけでもあの忌まわしさがフラッシュバックされて体が震えてしまって・・・」
そう俯きながら訥々と語る玲菜の瞳からぽろりと落ちた雫が、彼女の淡い桜色のスカートに小さな斑点を描いた。
そんな玲菜がたまらなく愛しくて・・・彼女が背負ってきた心の深淵を覗き見てしまったような錯覚を覚え、胸を
掻き毟られる程の痛みと衝撃を受けた―――
不意に、水面に波紋が広がった・・・徐々に小さな輪から大きな輪へと。私の玲菜への気持ちと連動するように・・・
水面に少し身を乗り出すように見入ってしまい、ボートがゆらゆらと揺れ、嫌々をした。
「そんな辛い過去があったんだね・・・正直に話してくれてありがとっ。凄く嬉しかった・・・これからは私が玲菜の
辛さも哀しみも全部背負っていってあげるから!二人一緒だったら乗り越えられるから・・・大好きだよっ!玲菜・・・」
群青色の湖面に咲いた可憐な一輪の白き花に、私は心からのキスを再び落とした。
蒼白い満月の淡い光の下、私は二人の確かで永遠の愛を密かに祈った―――
【了】 七瀬涼香