「ホント、吾郎くんがいると助かるわ。お疲れ様。休憩どうぞ」
小百合さんに言われて、僕は休憩に入った。土曜日のファミレスのランチタイムは、まるで戦場だ。とくに僕がバイトしているこのファミレスは、いまだに変なこだわりがあって、タブレット端末やドリンクバーがない。ホスピタリティとか接客にこだわる姿勢は良いと思うが、キッチンの料理も解凍して盛り付けるだけではなく、ハンバーグを手ごねしたりステーキをちゃんとブロックから切り出したりしているので、ピークタイムはホールもキッチンも大忙しだ。
味も接客も評判が良いが、働いている人間にしてみると、なかなか大変だと思ってしまう。そんな割に合わない職場でも、僕がやめずにバイトを続けているのは、小百合さんがいるからだ。
小百合さんは35歳の主婦で、週に3~4日働いている。最初に見た時、思わず見とれてしまうほどに美しいと思った。大学でも可愛い子はいるが、なんというか今どき量産型みたいなメイクや髪型をしていて、それほど惹かれる子はいなかった。
小百合さんは、今どき珍しいくらいに真っ黒な髪で、メイクもしてないのかな? と思うくらい薄い。でも、それが抜群に似合っていて、清楚な若奥様という雰囲気だ。実際、彼女目当てで通っていると思われる常連客も多い。
休憩しながら、やっぱり小百合さんのことを考えてしまう。主婦相手に何か進展するとは思っていないが、やっぱり一緒の時間を過ごすのは楽しい。他にも大学生や高校生のバイトの女の子もいるが、やっぱり気になるのは小百合さんだ。従食を食べていると、小百合さんも休憩に来た。
「フフ、美味しそうに食べるのね」
小百合さんが、笑顔で話しかけてくる。ファミレスの制服は、可愛らしいデザインをしている。基本、若い子の方が似合うと思う。でも、小百合さんは他の誰よりも可愛らしく着こなしているように見える。
食べないんですか? と、聞くと、
「うん。ここの、カロリー高いから太っちゃうもの」
と、答える彼女。確かに、美味しいものはカロリーは高いと思う。小百合さんは、スタイルも良い。胸はそれほど目立たないけど、手足が長くて引き締まった身体をしている印象だ。旦那さんは、どこで小百合さんと出会ったのだろう? 羨ましいと思ってしまう。
「でも、美味しそうね。それ、新メニューのヤツでしょ」
そう言われて、そうですと答えた。そして、少し食べますか? と、聞いた。すると、小百合さんは茶目っ気たっぷりに口を開けて食べさせてみたいな仕草をする。僕は、ドキッとしながらも、フォークで切った鶏肉の香草炒めを少し食べさせてあげた。
可愛らしい顔で口を開けている彼女……まるで、恋人同士になったような錯覚をしてしまいそうだ。
「美味しい! ありがとうね。お礼に肩でも揉もうか?」
そう言って、本当に肩を揉んでくる彼女。いきなりのスキンシップに、慌ててしまった。童貞丸出しのリアクションで、いいですいいですと言って身をよじる。柔らかい手で触られただけで、思い切り勃起してしまっている……。
「フフ、遠慮しないの。いっぱい働いたから、疲れたでしょ?」
小百合さんは、清楚な見た目からは想像出来ないくらいにアクティブでノリが良い。そのギャップも良いなと思う。それでも、さすがにこのままではマズいと思い、もう大丈夫ですと言ってマッサージをやめてもらった。
「いつも、ここで食べてるの? バイトしてない時はどうしてるの?」
小百合さんは、疲れているはずなのに、色々話しかけてくる。気に入られているのかな? と、嬉しい気持ちになるが、小百合さんは誰とでもこんな感じだ。僕は、自炊したり、牛丼を食べたりしていますと答えた。
「自炊もするのね。偉いわ。何作るの?」
小百合さんは、詳しく聞いてくる。興味を持ってもらえて、嬉しいと思ってしまう。そして、食べ終えると、そろそろ休憩も終わる。名残惜しいと思ってしまうが、このあとは暇になってくるはずだ。小百合さんとおしゃべりする機会もあると思う。
「今度、作ってあげようか? なんか、同じ物ばかり作ってるみたいだから、簡単なの教えるわよ」
小百合さんが、ドキッとすることを言う。僕は、慌ててそんなの良いですと答える。さすがに、家に来てもらうわけにはいかない。そんなところを見られたら、あらぬ誤解を招くはずだ。僕は、思い切りバイト先の近所に住んでいる。バイト仲間や常連客に見られてしまう可能性が、それなりにあると思う。
「遠慮しないの。吾郎くんには助けられっぱなしなんだから。じゃあ、アップしたらスーパー行こっか」
グイグイ話を進める彼女。僕は、思わず今日ですか!? と、驚いた。驚きすぎなくらいに驚いている。
「ダメ? デートとかあるの?」
そんな風に聞かれても、相手なんていない。でも、それは小百合さんも知っていることだ。からかわれているのかな? と思ってしまうが、慌てて違いますと答えた。
「じゃあ、決まりね。あと少し、頑張ろうね」
小百合さんは、涼しい顔で言う。今日は、僕も彼女も17時アップだ。朝から入っているので、ディナーピークが始まる前にアップになる。急にドキドキしてきた。小百合さんと、店の外で買い物をする? いままで、お店以外で会ったこともない。
休憩を終えてダイニングに戻ると、色々考えてしまう。人妻さんを家に上げる……やっぱり、マズい気がしてしまう。でも、逆に言えば、彼女がそういう目で僕を見ていないと言うことなんだろうなと感じた。弟とか、親戚の子供みたいな感覚なんだと思う。確かに、年は一回り以上違う。彼女が僕を恋愛対象としてみることなんて、まずないと思う。そう思うと、少し気が楽になった。
小百合さんも休憩を終えて仕事に戻る。僕がAダイニングで彼女がBダイニングだ。ピークタイムを過ぎたとは言え、お客さんは途切れない。会話する暇もないくらいだが、彼女のことを見ているだけで嬉しい気持ちになる。
笑顔で接客する彼女……あんな笑顔で接客されたら、男なら誰でも嬉しい気持ちになるはずだ。そんな中、会計で手こずっている年配男性が、理不尽に小百合さんにクレームを付け始めた。電子マネーが上手く使えないみたいな感じだ。
怒られていても、笑顔で対応する彼女。でも、彼女もそれほどスマホに詳しいわけではないので、困っている。僕は、慌てて駆け寄り、対応を交代した。結局、ただの残高不足だった。それでもまだ怒っている老人をなだめながら決済を終了すると、ありがとうもなく出ていった……。
「ゴメンね、ありがとう。助かったわ。スマホ、苦手なのよね……本当にありがとう」
小百合さんに何度もお礼を言われて、嬉しくなる。それにしても、理不尽なお客さんはいる。自分が悪いのにキレ散らかし、謝罪もなく出ていく……そんな場面はよくある。言い返せない立場の人間に、高圧的な態度を取る。そんなクズみたいな人間は、哀れだと思う。でも、そのおかげで僕の株が上がったので、少し感謝してしまう。
そして、時間になり、着替えをして店を出た。同じようなタイミングで小百合さんも出てきて、一緒にスーパーの方に歩き始めた。私服姿の彼女は、清楚としか言えない雰囲気だ。上品とかおしとやか、そんな言葉が頭に浮かぶ。僕は、遅くなっちゃいませんか? と、心配して言葉をかける。
「いまは一人だから平気よ。旦那さん、いま中国行ってるわ」
小百合さんは、そんな説明をしてくれた。確か、旦那さんは建築の設計をしていると聞いた。一部上場企業のゼネコンで働いていると言っていたと思う。その言葉に安心しながらも、急にドキドキしてきた。
「ヒマだから、パートの時間増やそうかなって思ってるんだ。吾郎くんと一緒にはたらくの楽しいし」
小百合さんが、無邪気な笑みを浮かべて言う。かなりドキドキしている。いやでも意識してしまうような言動だ。そのつもりはないと思うが、心奪われてしまいそうだ。僕は、嬉しいと答えた。同じように、一緒に働くのが楽しいと伝えた。
「ありがとう。こんなおばちゃんに気を遣ってくれて、優しいのね」
小百合さんは、イタズラっぽく微笑んでいる。無邪気で可愛らしい笑顔に、ますます心惹かれてしまう。そして、スーパーで買い物を始めた。色々な食材を選んでくれる彼女。会計までしてくれようとしたが、さすがに自分で払った。
スーパーで買い物をしているだけでも、本当に楽しかった。デートしている気持ちになった。これだけでも、満足してしまいそうなほど幸せな気持ちになれた。
そして、自宅に到着すると、
「へぇ、綺麗にしてるのね。吾郎くんらしいわ」
と、褒めてくれる彼女。別に自分が几帳面とか綺麗好きとは思っていないが、最低限の掃除は毎日している。家賃を負担してくれている両親への、最低限の感謝の気持ちだと持っている。
「キッチン、ちゃんと2口コンロなのね。じゃあ、簡単に出来るヤツ教えるわね」
小百合さんは、冷蔵庫の中の食材も使いながら、色々作ってくれている。今日食べない分は冷凍すればいいと言いながら、けっこうな量の料理を仕上げていく。確かに、簡単で僕にも真似出来そうなものばかりだ。料理をしている小百合さんは、凄く美しく見えた。清楚で家庭的……そんな雰囲気でますます惹かれてしまう。
僕は、ふと思って聞いた。どうしてホールの方で働いているのかと。この料理の手際なら、キッチンで真価を発揮しそうだ。
「そのつもりだったのよ。面接受けた時は。でも、店長が凄くホールにこだわってて。時給も上げるから、ホールでって頼まれたの」
そんな説明をする彼女。店長の意図はよくわかる。実際、彼女目当てのお客もいるので、店長の思ったとおりになったのだと思う。
「フフ、ありがとう。そんなに美味しい?」
一緒に食事を始め、料理を褒めると、嬉しそうな彼女。まだドキドキしている。この部屋に女性が上がったことは、母親と妹だけだ。緊張してしまう。でも、それ以上に楽しいし、幸せな気持ちだ。
「ねぇ、彼女はいないんだよね? どうして?」